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誠人さんの小説の連載が始まったので

誠人さんの小説載せてみます。
お暇があれば読んでみてください!


http://www.mohretsu.com/novel/sekiguchi/hakkyo01.html

発狂少年
セキグチMaコト(関口誠人)
第1話

透明のグラスには縦に切り込む感じで縞模様が入っている。表面にはびっしりと細かい水滴が、湿った壁に生える苔そっくりの形でついている。中のズブロッカというウォッカにキューブアイスが浮いている。氷の中に閉じ込められた気体が時々小さな泡となって液体の表面に浮かび上がる。

 暦の上では冬なのにあまり寒くなくて、部屋の窓は開けてある。窓際のソファーに腰かけて下に見える、なだらかな下り坂に点々と並ぶ街灯を眺めていた。
 腰の曲がった老婆がキャスターのついた四角い籠を押しながらその坂をゆっくり上ってくる。籠に体重をかけて歩く老婆の動きはまるでスローモーション映像のようだ。ずっと前に見た過疎化した漁港のある町のドキュメント番組を思い出した。
 ソファーに座ったままでもキッチンの一部が見える。キッチンの流し台には皿やマグカップなどの使い終わった食器が不安定に積み重なっている。さっき出て行ったユミが途中まで洗った。

「もう、いいかげんにして」

 ユミは泡のついている皿を壁に叩きつけた。割れた皿の白い破片が床に散らばっている。「悪かったよ、でもそんなつもりじゃないんだよ、わかるだろ」
「わからないわよ、もう、アナタ狂ってる・・・」

 ユミは銀色の丈の短い毛皮のコートをはおって部屋を飛び出した。水道の蛇口が開けたままだったから仕方なく流し台までフラフラと歩いた。気をつけていたのに床の破片を踏んでしまった。かなり酔っていたし少し前に飲んだエクスタシーも効いていたので痛みはほとんど感じなかったが靴下を脱ぐと足の裏が切れて出血していた。蛇口を止めたがバンドエイドがどこにあるのかはわからなかった。仕方なくソファーに戻って足の裏の傷口にティッシュをあてた。すぐにユミに電話したがでないのでメールを送った。帰って来てくれよ、もうあんな事はしないから。

 老婆は窓の随分近くまで歩いて来ていた。老婆は右足を出す時地面を擦る。四階の窓までアスファルトを擦る靴の音がよく聞えてくる。これは夢なのかもしれない、と本気で思った。風の音が左上から聞える。でもそれは風の音ではなく高い空を飛んでいるジェット機の音だった。

 あんな事はもうしない、とメールしたが多分またすぐパーティーをするだろうと思った。携帯の壁紙を見る。そこにはユミと僕とユミの飼っている白くて大きい猫とが写っている。ユミとの小さな幸せを感じて笑っている自分の顔。その顔はまさに正気の男のものだ。

 もう一本のウォッカの瓶が空になった。昨日の深夜から飲み始めて、今、次の日の夜の8時。20時間近く飲み続けている計算になる。みんなが帰ったのが6時過ぎ。最後まで残ったデイブと飲んで気づくと床に、5本のハードリカーの空き瓶が転がっていた。今注ぎ終わった瓶を入れると6本空けた事になる。ふと窓の下を見ると老婆はいなくなっていた。

 決して冷たくないがひどく湿っている風が、はだけた胸にベタベタとはりついた。これは夢かな・・・。もう一度、もっとはっきりと意識しよう、と思った。それで、声に出してみた。

「コレは夢かな」
 すると声が胸に振動したから、これは紛れもない現実なのだ、と気づいた。

 真っ暗く轟音が渦巻く店内からはおよそ想像つかない蛍光灯に照らされたクラブのオフィス。スチール製の折り畳み式のテーブルの上に置いてある缶コーヒーの空き缶の飲み口にタバコが数本ねじ込まれている。

 そのシラけた蛍光灯の事務室でデイブはクラブの店長の吉川君と怒鳴りあっていた。デイブは早口で何かまくし立てているけど英語だからファックとかマネイ位しか聞き取れない。ヘイ、ディー、ちょっとクールダウンしろよ、と僕が大声で言ってデイブはやっと黙った。「あー、マサトさーん、ちょっと困りますよー、百人以下の動員だったらキックバックできないって言ってあったじゃないすかー」
「わかってるわかってる、ヘイディー、キノちゃんがラブエリアで待ってるよ、行ってやれよ」
 しかしデイブはすぐには納得しようとはしない。
「ヤクソクチガウンデショ、アンビリーバボー」
「アイノー、バットキノちゃんウェイティングフォーユーだから行きなよ」
 デイブを無理矢理でもその場から発ち去らせようとしてそう言った。デイブはオフィスの木の扉を後ろ手にバタンと思い切り強く閉めて出て行った。
 四つ打ちの重低音が小さな音で聞えてくる。天井で白く光る蛍光灯に多分、蛾だと思われる羽根虫がクルクル回りながら飛んでいる。「わかってくださいよ、お願いしますよ、ったく、殴られそうになりましたよ」
「ごめんごめん、謝るよ、だからもう彼に何か言われても相手にしないでね、バックの話しは納得させるから」
「お願いしますよーまったく参ったなー」
 クラブのオーガナイズなんて楽しめればそれでいいっていう事くらいデイブだって分かっている。デイブは単にクスリを買う金が欲しいだけだ。結局僕が彼に金を渡すしかない、と覚悟した。
「ウチだって払えるモノは払いますよー、でも余裕ないんですって、人件費とか色々かかってるんですよー」
「わかったわかった」

 吉川店長は相当気分を害したらしくパイプ椅子に座ると貧乏揺すりをしながら震える指でタバコに火を点けた。僕も座りタバコをくわえた。灰色のロッカーが約十人分並んでいてその扉にはネームプレートが貼ってある。僕の知っている名前もあった。
 クラブのスタッフが事務所に入って来た。よくパーティーに遊びに来るアキナだった。「オス」「あら、ここにいたんだ、あ、店長、バーでトーマスが呼んでます」「わかった、じゃそういうわけでマサトさんヨロシクです」店長が出て行くとアキナが僕の上にショートパンツから露出した足でまたがってきた。そして唇を押し付けて舌を差し込んできた。彼女の舌が苦かったから多分コカインを持っているんだろう、と思った。「やるでしょ」アキナはピンクのマニキュアの指で茶色い小瓶を差し出した。キャップが黒いプラスティックで出来ていてそのキャップに小さなスプーンが付いている。救心という心臓の薬の瓶そっくりなその小指の先ほどの小さな瓶の中に白い粉が入っている。その粉を蓋に付いているスプーンですくって鼻から吸い込む。

「目立たないようにやってね」
「わかってるよ、で、幾ら?」
「いいよ今日のところは、で今度いつパーティーやるの?」
「とくに決めてないけど必ず声かけるよ」
 連絡待ってるね、と言って指をパラパラと動かしながらアキナは店に戻って行った。
 誰もいなくなったオフィスでコークを吸引するためにエナメルのスニーカーのつま先でオフィスの木の扉を押さえた。小瓶は凄く小さいから大して入っていないように見えるが、実はたっぷり1グラムの粉が入っている。
 コカインを感じるには瓶の蓋についたそのスプーンで1、2度吸い込んだくらいじゃダメだ。特にスピードの高揚感の経験があるとコークの感覚が理解できない。初めてやる時は1グラムくらいの分量をやらないと理解できない。コーク好きはスピードにハマっているヤツをバカにしたりする。その逆もよくある。もちろん目クソ鼻クソだ。
 気づくと小瓶の半分を吸いこんでしまっていた。頭の中をメロディーが駆け抜ける。常に持って歩いている手のひらに隠れてしまうほど小さいボイスレコーダーをジーンズのポケットから出してレコーディングボタンを押して一人のオフィスで歌いまくる。シェイクシェイクシェクハンドシェイクハンドデラックス。

 灰色の重たい鉄の扉の太いノブを45度下に回して閉めると耳の奥でキューンという音がする。スタジオのボーカルブースの中は壁に収音材がはってあったりするから無音に近い。ジェット機で高度を上げた時と似た感覚に襲われる。
「マサト、イケる?」
 ヘッドフォンの中からディレクターの西巻の声が聞える。
「自信ないなーこの歌」
 みんなの笑い声がヘッドフォンを通して響く。
「自分で作っといてナニ言ってんの」
 そう言いながら西巻がまた笑った。

 スーッ毒に溺れ、重なるように堕ちていく・・・と歌い出す。最初のスーッっていう音はコークを吸う鼻の音をイメージしている。キミのオシャレは間違ってる、僕の笑顔も間違ってる・・・。サビの最後の歌詞だ。アコーディオンの音が右から左に流れる。シャンソンのようなテイストで魚がうまくアレンジしてくれた。この曲は魚のアレンジがピッタリときた。アレンジャー達は僕の言葉と旋律を具体化してくれる。僕はただ思いつくままに走り書きした五線紙のノートから感じるままにわめいたりうなったりするだけだ。
 よいアレンジャーというのは歌詞にもメロディーにもないが確かにそこに存在しなければならない空間のニュアンスとでもいうモノを組み立てて見せる事のできる人のことをいう。その空間がちゃんとしていると僕は好きなように大騒ぎしたり泣き喚いたりできる。アレンジがダメだと歌の方が合わせなくちゃならなくなりそうなるとすごく不自由で窮屈な作品になってしまう。そういう音の中では弾けられない。言葉も死んでしまう。アレンジとは非常に数学的作業だが、本当にいい編曲とは、そういった高度な計算を感じさせないから不思議だ。この曲の魚のアレンジがまさにそれだった。
 その日は昼飯の時からラムを飲んでいた。ラム酒は最近の僕のマイブームだ。飲めば必ず飲みすぎる。だから一回歌う毎にフラフラと椅子に崩れ落ちる。

「きゅーけー」
「もうすか」
 皆笑った。

 胸をはだけたシャツのポケットからセブンスターを出して火をつけた。強烈な吐き気に襲われる。もう一度深く煙を吸い込んだ。指先がとても冷たい。手を握ったり広げたりを何度も繰り返した。腿の上に肘をついて何度も手をひらいたり握ったりを繰り返していると目蓋が重くなってきた。外して首にかけたヘッドフォンから西巻の声が虫の鳴き声のように小さく響いている。しかし何を言っているのかはわからない。僕はほとんど眠りに落ちかけていたがタバコが付け根まで燃えて指を火傷して一気に目が覚めた。


今日の一言
『知らない世界にドキドキしちゃいました!』

ps,最後まで読んでくださった方ありがとう(@~▽~@)ノ

さむっ!

何かいきなり寒くなった。
平野部でも夜中に雪が降るかもなんて言ってた。
この寒い中、相方は夜勤で一晩中外にいる!
風邪引いたら困るんだけどな。
来週からは私も相方と夜勤だ。
昼の仕事が三人しかないみたい┐('~`;)┌
いくら寒くても、夜勤頑張らなきゃね。
仕事しないと年越せないしさ。

今日の一言
『7割の人が仕事もらえず自宅待機!なのに何故新人のオジサンを雇うのだ?』

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